2014年5月24日土曜日

再会


今年チェルシーフラワーショウに出掛けたのには、ひとつ目的があった。

それはパットさんという女性に会うこと。

話せば長くなるが、英国園芸協会日本支部(RHSJ)さんに書いた記事があるので、それをまず読んでいただくのが早いかもしれない。

「もしもし。突然に恐れ入ります。
イエローブックを見てお電話しました。
日本からはるばるやって来たのですが、あなたのお庭をみせていただけませんでしょうか?」

2011年5月26日。
その日、私はチェルシー・フラワーショウの会場にいた。
混み合ったショウ会場を朝から歩きづめだったので、売店で買った紅茶のカップをもって大きなプラタナスの根元に腰掛けた。
そして開いたのはイエローブック。


明日からヨークシャー州に庭巡りに行くつもりで、できれば個人の庭を見たいと思い、気になった庭に印をつけておいたのだ。

「あなたはどこから電話しているの?」周辺がざわついているので尋ねられたのだろう。
「ええ、今チェルシー・フラワーショウの会場からなんですよ」「まぁ、うらやましい!」そんな会話のやりとりでも、私が園芸好きであり、先方と共通の趣味があると安心してもらえる材料になったのかもしれない。

紅茶をすすりながらこうした電話を3本して、100発100中で快諾を得ることができた。

今回、目をつけたのはハロゲイトという趣のある街。

イエローブックには地図が載っているので、それぞれの庭の位置関係を知ることができる。これによって効率のよい庭めぐりが可能だ。

移動の時間、昼食の時間などを考えて1つの庭に90分くらい滞在できるように、3つの庭を巡る計画を立てた。

イエローブックにはその庭の公開日をはじめとする条件が掲載されている。

自分の旅程と公開日がぴったり合うことは、ごく稀だろう。

だからといってあきらめてはいけない。まずは連絡をして熱意をもって交渉してみること。

もちろん「日本からはるばる・・・」というフレーズを忘れてはいけない。

そうすると、閉じていた門が開くことがあるのだ。

この滞在中に訪れた3つの庭は、生涯忘れることのできない庭となった。

(中略)

2つ目は、傾斜地をうまく利用したパットさんの庭。毎日5、6時間は庭仕事をするという彼女は、80歳を超えていたがとても若々しく輝いていた。

アイルランド訛りの英語がとても優しく、いつまでも耳に残った。次の庭へ行くと伝えると土地勘のない私を気遣って「途中まで一緒に行ってあげるからついて来なさい」と親切に先導までしてくれた。

この翌年RHSJのツアー・リーダーとして、自信をもってお勧めできるプライベート・ガーデンということで彼女らの庭を再訪することになった。

ツアーに参加された皆さんも、彼女たちとの交流を楽しんでいるようだった。

パットさんの庭を離れる前に代表して謝辞を述べた時、彼女から思わぬプレゼントを頂戴した。

うれしかったのは言うまでもないが、虚をつかれて不覚にも涙がポロポロとこぼれてきてしまった。プ

レゼントを頂いたことより、あの日かけたたった1本の電話からの御縁がここまで広がり、ここまで庭を介して通じ合えたことがうれしかった。

彼女は今も元気に庭に出ていらっしゃるだろうか・・・、イエローブック2011年版を時折開いては彼方の庭に思いを馳せる。

それにしても、私のように怪しげな東洋人が庭を見たいと突然電話をかけてきて、普通ならば警戒するであろうに、3人ともとても暖かく迎えてくれたことに大変感激した。

そしてその後もクリスマスカードをやりとりするなど今も付き合いが続いている。
(RHSJ会報誌2014年1月号より抜粋)

ということで今もクリスマスカードなどのうやりとりはあるのだけど、できればまた会いたいといつもいつも思っていた。

しかし彼女が住むのは電車で3時間ほど離れた英国北部で、なかなかロンドンから気軽に行ける距離ではない。

色々とやりとりをしている中で、どうやら彼女がチェルシーフラワーショウにやってくると知り、これぞ千載一遇のチャンスと彼女の日程に合わせて会場に足を運んだというわけだった。

待ち合わせたのは午後3時半。

恋人と待ち合わせているかのように、そわそわしてしまったよ。

娘夫婦と3人で現れたパットさんはまったく変わっていなかった。

立ち話もなんだからということで、英国の夏の飲み物PIMM'Sを飲みながら近況などを聞いた。

彼女は年齢が年齢だけに体力の衰えから、イエローブックで庭を公開することは今はやめてしまったそうだが、それでも今でも毎日5~6時間は庭仕事を楽しんでいるんだそうだ。

なんて素晴らしい!

彼女はショウを見にきたわけなので、あまり邪魔をしてもいけないのでそこそこで話を切り上げた。

3年前、このチェルシーの会場から掛けた一本の電話からこうやってお付き合いが続いていることは本当に有難いかぎり。

日々脳天気に楽しく生きているが、彼女と再会できたことは、今年嬉しかったことの第一位にランクされる。

庭のとりもつ御縁というのは間違いなくあるんだなぁ。

パットさん、どうぞますますお元気で。


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