2012年6月3日日曜日

涙のわけ


今回の英国旅行では個人のお庭、いわゆるプライベートガーデン2軒を訪ねた。

そもそもは、昨年僕一人で庭めぐりをしに行ったときに偶然出会ったお二人のお庭だった。

英国には National Garden Scheme (NGS) というものがあって、これは自分の庭を一般に有料で公開して集めたお金をチャリティに寄付をするというもの。
これに参加している庭を一冊に集めてあるのが、いわゆるイエローブックというものである。

僕は昨年イギリスに到着するやいなや本屋さんに直行してこのイエローブックを入手した。

そして庭めぐりの目的地として自分が狙いをつけたヨーク近辺のプライベートガーデンを本の中にある庭の説明文、それぞれの庭の位置関係、そして勘を働かせて3つの庭をピックアップした。

ちょうどチェルシーフラワーショウに繰り出す日だったので、3つの庭の電話番号をメモして出掛けた。
チェルシーで精力的に情報収集をしてホトホト疲れたときに、芝生の上に座って休憩をしながら電話を掛けた。

「あの~、イエローブック見てお電話しているんですけどぉ、明後日の午後お庭を見せていただけませんか」
たしかそんなようなことを言った気がする。

向こうも面食らったに違いない。

だって突然、訳のわからない怪しげな日本人から電話が掛かってきて庭をみせろというのだから。

でも
「今チェルシーフラワーショウの会場から電話しているんですよ」
「日本からはるばるあなたのお庭が見たいと思ってやってきたんです」
「ヨークには以前住んでいたんですよ」
なんてことを話しているうちに
「いらっしゃい」
とおっしゃっていただいた。

その数日後、僕はヨークにいた。
3軒とも素晴らしい庭であった。

それにもまして3人の女性オーナーのお人柄にとても惹かれた。

庭好き、花好き、自然好き、というのは庭を見れば分かるし、話せばその優しいお人柄が滲み出てくる。

とくにパットさんという77歳の女性ガーデナーは、なんと毎日5~6時間は庭で汗を流すのよ、と悪戯っぽく笑うのだけど、それはあながち大袈裟ではないと思った。
77歳なのに背筋は伸び、肌艶もよく、健康そのものでとてもチャーミングな女性だった。

そのときはよもや一年後に団体で再訪することなんてこれっぽっちも思っていなかった。

そして今回の旅の企画段階でこの3軒のプライベートガーデンのうち2軒を訪ねてみてはどうかという話になって、昨年末ころに「来年5月に20人くらいで伺いたいのだけど・・・」と連絡したところ、快諾してくれた。

その後日程の調整などのやりとりをする折に
「今年は天気が悪くて花が遅れている」「皆が来るときまでにはなんとかなっていると思う」「日も迫ってきたので庭で仕上げの準備をしている」などと近況を知らせてくれた。

とにかく天気が悪くて決して状態は良くないのだけど、それでもできる最高の準備をして待っている、ということが伝わってきた。

そして皆と訪れたとき、確かに花は少なかったが気持ちの入った庭の様子に皆から感嘆の声が上がった。

一人で20人を出迎えるのは心細かったので、といって庭友達の方も手伝ってスコーン、ケーキ、紅茶などが振舞われた。

手入れの行き届いた庭、紅茶などのホスピタリティはもちろんだが彼女の暖かいお人柄に皆さん感激された様子だった。

この庭を紹介でき皆さんに喜んでいただけたこと、そして元気な彼女の様子をみて胸が熱くなった。

彼女は77歳という自分の年齢も考えて、そろそろ庭を公開することは辞めて、これからはノンビリと庭仕事を楽しもうと思っている、なんてことを聞いていたので 「いつまでも元気でいておくれよ」と願わずにいられなかった。

まぁそんなことで一人で勝手に胸の中では盛り上がっていたわけだ。

そしてその庭を出発する前に、皆さんを代表して御礼を申し上げて心ばかりのプレゼントを手渡した。

パチパチパチ・・・ 拍手が起こり、ここまではよくあるパターン。

すると彼女がどこかへいなくなったなぁ、と思ったら手にカードとリボンの付いた筒のようなものをもってきた。

「これはアナタへよ」

まったく予想もしていなかったし、単純に感激した。
と思ったら目から涙がボロボロと溢れてきて止まらなくなってしまった。

なんで涙が出たのか考えてみた。

まだ会うのも2回目だってのに、ずっと前から知っていたような気がするような不思議な感覚。
昨年こんな怪しげな日本人のオッサンを親切に迎えてくれたこと。
今回のもてなし全て、そして細かな気配り。
彼女がオープンガーデンを辞めようとしている寂しさ。
皆が喜んでいる様子をみて安心したこと。

などなど、その全てがそうであるような、その全てでもないような、とにかく説明がうまくつかないけど涙が出ちゃったんである。

もともと涙腺はゆるい方なのではあるが、これには参った。

こういう感激があるから庭巡りはやめられないし、こいう感激があるからイギリスという国にはときどき舞い戻ってきたくなるんだよね。

イギリスには感動がある。

ちょっと独断ではありますが声を大きくしてそう言いたい。



2 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

その場にいなかった者が読んだだけでも
そのシーンが目に浮かんで
じ〜〜んときました・・・
心と心が、魂と魂がふれあった
温かい一時をお過ごしになられたのですね。
素晴らしいです。

花咲ジジイ さんのコメント...

匿名さん

有難うございます。

いやいやお恥ずかしい。

でも確かにホンワカした今回の英国旅でした。